待機児童対策における多様な保育サービスの位置づけ:認可外施設等の現状と自治体の連携促進
はじめに
待機児童問題は、特定の地域において依然として解消が喫緊の課題とされています。この問題への対応は、単に認可保育所の定員拡大に留まらず、地域に存在する多様な保育サービスを包括的に捉え、それぞれの特性を活かした連携体制を構築することが求められています。本稿では、待機児童対策における多様な保育サービスの現状と役割、そして自治体が果たすべき連携促進の役割について、客観的な情報に基づき解説します。
多様な保育サービスの種類と現状
我が国において、乳幼児に対する保育サービスは、主に「子ども・子育て支援新制度」に基づき、以下の類型に分けられます。
- 認可保育所: 児童福祉法に基づき設置・運営される施設で、施設の設備や職員配置基準等が国により定められています。自治体が利用調整を行います。
- 地域型保育事業: 0~2歳児を対象とし、地域のニーズに応じたきめ細かな保育を提供する事業です。小規模保育事業、家庭的保育事業、居宅訪問型保育事業、事業所内保育事業の4種類があります。認可保育所と同様に、自治体が利用調整を行います。
- 認可外保育施設: 児童福祉法に基づく認可を受けていない保育施設等の総称です。ベビーシッター、企業主導型保育事業、地方単独事業による保育施設など、多様な形態が含まれます。児童福祉法に基づき都道府県等への設置届出等が義務付けられています。
待機児童の解消に向けた取り組みの中で、地域型保育事業や認可外保育施設は、認可保育所の整備が難しい地域や、特定のニーズ(短時間、夜間、病児など)への対応、あるいは保護者の多様な就労形態への対応において、重要な役割を果たしています。特に、企業主導型保育事業は、企業の従業員向け保育に加え、地域枠を設けることで地域の保育ニーズに対応する役割も担ってきました。
しかし、これらの多様なサービスも、地域によっては偏在が見られたり、サービスの質や提供される情報にばらつきがあったりする現状も指摘されています。また、保護者にとっては、認可保育所と比較して費用負担が大きくなる場合があることも、利用を検討する上での課題となることがあります。
待機児童対策における多様なサービスの役割と課題
多様な保育サービスは、待機児童の受け皿を物理的に拡大するだけでなく、以下のような多角的な役割を担いうるポテンシャルを持っています。
- 弾力的な受け皿: 特定の地域や時間帯における急な保育ニーズに対応しやすい柔軟性を持つ場合があります。
- 多様なニーズへの対応: 病児保育、一時預かり、多言語対応など、認可保育所だけではカバーしきれない専門的・多様なニーズに応えることが期待されます。
- 地域資源の活用: 空きスペースや既存の施設、地域の人材などを活用し、効率的なサービス提供が可能になる場合があります。
一方で、これらのサービスを待機児童対策に有効に位置づける上での課題も存在します。
- 情報の非対称性: 保護者への情報提供が不十分な場合があり、利用可能な選択肢が十分に認識されていないことがあります。
- サービスの質の確保: 認可外施設等においては、認可基準とは異なる基準で運営されているため、サービスの質にばらつきが生じる可能性があります。自治体による情報提供や指導・監査を通じた質確保への関与が重要となります。
- 連携不足: 認可保育所と地域型保育事業、認可外施設等との間の連携(卒園後の受け皿確保、情報共有など)が十分でない場合、保護者の利便性が損なわれたり、子どもの成長に応じた切れ目のない保育提供が難しくなったりします。
自治体における連携促進の取り組み
これらの課題を克服し、多様な保育サービスを待機児童対策に有効活用するためには、自治体の積極的な関与と連携促進が不可欠です。具体的な取り組みとしては、以下のようなものが考えられます。
- 情報提供体制の強化: 自治体のウェブサイトや窓口で、認可・認可外を含めた地域の保育サービス全体に関する正確かつ詳細な情報(空き状況、利用条件、費用、第三者評価結果など)を一元的に提供することで、保護者が適切にサービスを選択できるよう支援します。ポータルサイトの開設や相談窓口の設置などが有効です。
- 認可外施設等への支援と連携強化:
- 一定の基準を満たす認可外施設等に対する補助金制度の導入や拡充により、運営の安定化や質の向上を支援します。
- 認可保育所と認可外施設等の間の職員研修機会の共有や、合同での情報交換会などを企画・実施し、相互理解と連携を深めます。
- 地域型保育事業からの連携施設への卒園児受け入れ枠確保に向けた調整機能を強化します。
- 地域型保育事業の計画的な展開: 待機児童が多く発生している地域や、認可保育所の整備が困難な地域において、地域型保育事業の特性を活かした計画的な整備を進めます。
- 質の確保への関与: 認可外施設等に対する定期的な立入調査や指導・助言を適切に実施し、保育の質の確保・向上を図ります。また、第三者評価の受審を促進することも有効です。
これらの取り組みは、地域の実情に応じて柔軟に組み合わせ、推進する必要があります。多様な保育サービスがそれぞれの特性を活かしつつ、互いに連携し、補完し合う関係性を築くことが、地域全体の保育の質の向上と待機児童の解消に繋がります。
まとめ
待機児童問題の解消は、認可保育所の整備に加え、地域に存在する多様な保育サービスをいかに活用し、連携を促進するかにかかっています。認可外施設や地域型保育事業は、受け皿拡大や多様なニーズへの対応において重要な役割を担いますが、情報提供の不足や質のばらつきといった課題も抱えています。
自治体は、これらの多様なサービスに関する情報提供の強化、施設への支援、そして認可・認可外を問わない施設間の連携促進といった役割を積極的に果たすことが求められます。地域の実情を詳細に把握し、それぞれのサービスの特性を踏まえた上で、保護者にとっても利用しやすく、子どもにとって質の高い保育が提供される環境を整備していくことが、待機児童問題の解決に繋がる重要な一歩となります。