待機児童問題を知る

自治体における居宅訪問型保育の活用:待機児童解消と多様なニーズ対応の視点

Tags: 居宅訪問型保育, 待機児童対策, 多様な保育ニーズ, 自治体, 保育制度

はじめに

待機児童問題の解消に向け、保育所の整備拡大や多様な保育サービスの提供が全国の自治体で進められています。その中で、特定のニーズを持つ子どもや家庭に対し、より柔軟できめ細やかな保育を提供できる選択肢として、「居宅訪問型保育事業」が注目されています。本稿では、居宅訪問型保育の制度概要、現状、そして待機児童解消及び多様な保育ニーズへの対応におけるその役割について、自治体職員の皆様の視点から解説いたします。

居宅訪問型保育事業の制度概要

居宅訪問型保育事業は、平成27年度に子ども・子育て支援新制度における「地域型保育事業」の一つとして位置づけられました。これは、居宅において、対象児童1人に対し、保育士等の家庭的保育者1人が保育を行う事業です。

主な特徴は以下の通りです。

この事業は、通常の保育施設での受け入れが難しいケースに対応するために設計されており、障害児や医療的ケア児の保育ニーズに応える重要な選択肢となります。

待機児童対策としての居宅訪問型保育の役割

待機児童は、保育の必要性がありながらも、保育所等を利用できていない子どもの数を指します。この中には、いわゆる「隠れ待機児童」として統計に現れないものの、特定の事情により希望する施設形態や場所で利用できない子どもや、集団保育が困難な子どもも含まれます。

居宅訪問型保育は、特に以下のようなケースで待機児童解消に貢献する可能性があります。

  1. 集団保育が困難な子どもへの対応: 重度の障害や慢性疾患、医療的ケアが必要な子どもなど、健康管理や安全確保の観点から通常の保育施設での受け入れに高度な専門性や個別対応が求められる場合があります。居宅訪問型保育はマンツーマンでの対応が可能であり、これらの子どもたちの保育ニーズに応えることで、待機児童の解消につながります。
  2. 地域における多様なニーズへの対応: 保育施設が少ない地域や、特定の時間帯のみ保育が必要な家庭など、既存の保育サービスだけでは対応しきれないニーズが存在します。居宅訪問型保育は居宅で実施されるため、地域や時間帯の柔軟性が比較的高い場合があり、これらの多様なニーズに対応することで、広義の待機児童問題の緩和に寄与します。

ただし、居宅訪問型保育事業所数は、他の地域型保育事業(小規模保育、家庭的保育、事業所内保育)と比較して多くない現状があります。待機児童対策として有効に機能させるためには、事業の認知度向上や普及促進、事業者の育成が課題となります。

多様な保育ニーズへの対応における役割

待機児童問題の背景には、保護者の就労形態の多様化や、特定の状況にある家庭の増加など、保育ニーズの多様化があります。居宅訪問型保育は、特に以下のような多様なニーズに対応する上で有効な手段となり得ます。

これらのニーズは、既存の集団保育中心のサービスでは必ずしも十分に満たされていません。居宅訪問型保育は、これらの個別性の高いニーズに対応することで、より多くの家庭が安心して子育てと仕事の両立を図れる環境整備に貢献します。

自治体職員への示唆と今後の展望

居宅訪問型保育事業を待機児童対策や多様なニーズ対応に効果的に活用するため、自治体においては以下の点が重要となります。

  1. 地域ニーズの把握: どのような子どもたち(医療的ケア児、障害児、多胎児等)が地域に居住しており、どのような保育ニーズを抱えているのか、実態調査や関係機関(医療機関、相談支援事業所、福祉部署など)との連携を通じて把握する必要があります。
  2. 事業者の育成・支援: 居宅訪問型保育はマンツーマン保育であり、高い専門性が求められます。質の高いサービスを提供できる事業者を確保・育成するための支援(研修機会の提供、運営費補助など)を検討する必要があります。
  3. 関係機関との連携強化: 医療機関、障害児相談支援事業所、保健センター、基幹相談支援センター等との連携を密にし、対象児童や家庭を適切に事業につなげられるような体制構築が不可欠です。
  4. 情報提供と周知: 事業の存在や利用方法について、保護者や関係機関へ積極的に情報提供を行い、認知度を高める必要があります。利用を検討しやすいよう、申請手続きの簡素化も有効です。
  5. 他の保育サービスとの連携: 居宅訪問型保育だけでなく、訪問型病児保育や一時預かり事業など、他の多様な保育サービスとの連携により、より包括的な子育て支援体制を構築することが重要です。

厚生労働省では、居宅訪問型保育を含む地域型保育事業の質向上や普及に向けた取り組みを進めています。自治体は、国の動向を注視しつつ、地域の実情に合わせて居宅訪問型保育の導入や拡充を戦略的に検討することで、待機児童問題の解消と多様な子育てニーズへの対応を進めることが期待されます。

まとめ

居宅訪問型保育事業は、集団保育が困難な子どもや特定のニーズを持つ家庭に対し、居宅での個別保育を提供する地域型保育事業です。待機児童問題の中でも、特に重度障害児や医療的ケア児といった集団保育が難しいケースの受け皿となり、また多胎児家庭など多様なニーズに対応する上で重要な役割を担います。

自治体においては、地域のニーズ把握に基づいた事業者の育成・支援、関係機関との連携強化、積極的な情報提供などが、居宅訪問型保育を有効に活用し、待機児童の解消と多様な子育て支援を実現するための鍵となります。この事業の可能性を最大限に引き出し、地域の子どもたちが安心して成長できる環境、そして保護者が安心して子育てと仕事の両立ができる環境整備を進めていくことが求められています。